2019/09/23

【特集】サウナじゃなかったら、映画は生まれていなかった!?『サウナのあるところ』監督インタビュー

『サウナのあるところ』は、流行りとは無縁。
いつ、どんなどきでも、タイムリーなテーマになりうる。


ヨーナス・バリヘル監督(左)、ミカ・ホタカイネン監督(右)。駐日フィンランド大使館の大使用サウナにて。



日本でも今熱い視線を浴びている「サウナ」。そんな日本にタイムリーともいうべきサウナ映画『サウナのあるところ』が、本場サウナの国、フィンランドからやってきました。

フィンランドでは欠かせないサウナという象徴的な文化にスポットを当てた本作は、フィンランドの普通の男性たちが裸で登場。自身の辛く苦い経験を、サウナで涙を流しながら静かに語ります。そんな姿にぐっと来るとともに、フィンランド人とサウナにある深い結びつきを教えてくれる話題のドキュメンタリーです。

本国フィンランドでは2010年に公開されている本作。そこから9年という歳月を経て日本へやってきました。それにしても、なぜサウナで語る男性たちに着目したのでしょうか。フィンランドの男性たちは、劇中のように、普段からサウナの中で語り合ったりするものなのでしょうか。

公開を記念して来日したヨーナス・バリヘル監督、ミカ・ホタカイネン監督の二人に直撃しました! 



フィンランドでの公開から9年間、
世界中で上映され続けている映画。

――フィンランドでは2010年に公開され、その9年後に日本で公開されることになりました。どんな思いですか?

ミカ・ホタカイネン監督(以下ミカ監督):
信じられない。正直驚いています。人生のとても基本的なこと、基本的な価値観、生きるということについての映画なんですが、9年も経って上映されるということは、流行りとは無縁の、いつ、どんなときでもタイムリーに受け止めてもらえるのかなと。実は、ドイツでも数年前に上映されています。

ヨーナス・バリヘル監督(以下ヨーナス監督):
2010年にフィンランドから始まって、9年もの間、世界中で上映されているというライフサイクルだったんですが、来年の2020年に自分たちのもとに権利が戻ってきます。10年を経て、自分たちのもとから、新たなスタートが切れるのではないかと思っています。

――映画のアイデアは、タンペレの公衆サウナで、男性たちが周りを気にせず、とてもプライベートな話をしていたのを、ヨーナス監督が耳にしたことがきっかけだったと聞いています。もしそういった話をサウナではなく、他の場所で聞いていたら?この映画は生まれなかった?

ヨーナス監督:
映画は生まれてないですね。これは断言できます。ご存知のように、サウナとは、サウナの部屋に入って、出て涼んで、またサウナの部屋に戻ったりして、数時間かけて入ります。その全てのプロセスがサウナ。そういう場で、長い時間行ったり来たりしながら裸の状態でいる。まさに、男性たちが心を許すのに必要な環境だった。この環境が整って初めて、男性は心を開けるのだと思ったんです。

これだ!と閃いた私は、すぐさまミカに伝えたかったんですけど、裸だし、そのまま出るわけにはいかなかったので、いったん服を来て、外に出てミカに電話をして、またサウナに戻ったんです(笑)サウナには携帯電話などを持って入れないんです。

――それは、監督もサウナで裸でリラックスしていたからこそ、感覚が研ぎ澄まされ、映画の題材になると閃いたのでしょうか?

ヨーナス監督:
まあ、そうとは限らないかな(笑)ドキュメンタリー映画を作る人間なので、常に人間観察をしています。趣味でもあり、それが仕事なので。なんとなく観察していたら、これだというものが見つかったという感じです。



簡単に声をあげることができない男性にエール。
男たちがより楽に生きていくためのツールになれば。


――フィンランドの人はとても静かなイメージがあります。サウナの中では、複数で話す人の姿が見られます。ちょっと意外だなと思いました。サウナではみなさん結構お話をする人が多いのでしょうか?(私は一人でただただ、静かに無心になります)

ミカ監督:
フィンランド人は物静かだと言われているよね。新しい人や知らない人には静かで話さないかもしれないけれど、映画に出ている人たちは、前から知っていて、親しい間柄だからこそ、いろんな話ができたのだと思います。

ヨーナス監督:
ラヤポルティサウナ」という公衆サウナ(フィンランド最古の公衆サウナ)に行ったとき、女性側と男性側のサウナが、通気口からそれぞれの声が聞こえるような造りになっていて、男性が8人、女性が8人、サウナに入っていたんだけど、女性側からは物音ひとつ聞こえてこなくて、ものすごく静かでした。それとは逆に、男性側は賑やか。うるさいくらいに喋りまくっていたんです(笑)

ミカ監督:
話す相手はさすがに選んで話すかもしれないけれど、女性はプライベートな話を、比較的どんな場所でも話せる傾向があると思います。でも男性はそうではないんですよね。

ヨーナス監督:
女性はサウナに入って、ただ静かに黙ってリラックスするんだと思います。男性は真逆で、普段静かな分、サウナという場所では思いきり話せるということなのではないかと。簡単に外で声をあげることができない男性たちの、この状態を少しでも変えることができたらいいなと思います。

――私もサウナは一人で行き、一人でただただ静かに無心になります。周りの女性もそんな感じです。日本の男性はわかりませんが……。

ミカ監督:
こないだ新宿のテルマー湯のサウナに入ったときの印象だと、日本の男性も話をすることなく、静かでしたね。話すとはいえ、フィンランドのサウナでは、話の内容に暗黙のルールがあります。仕事や政治関係の話はしないことになっています。

ヨーナス監督:
もしかすると、仕事の話はまだありかも?むしろ、宗教と政治の話がタブーです。食い違う意見からヒートアップしてしまったりする場合があるし、サウナは喧嘩をする場ではないので、あえて避けるのが暗黙のルールとなっています。

――最後に、監督はどのくらいの頻度でサウナに入りますか?よく入るサウナを教えてください。

ミカ監督:
寒いときは毎日。そうでないときは週に2~3回くらい。自宅にある2人用くらいのサウナに入っています。

ヨーナス監督:
私はフィンランド北部に自宅があります。そこにいるときは、週に5~6回。薪のサウナに入っています。最近では電気のサウナが主流ですが、薪のサウナは温まり方が全然違いますよ。旅行中や出張中は基本的に入りません。(※ヘルシンキの会社から自宅まで車で運転してメーターを見てみたら、ちょうど777キロメートルだったというヨーナス監督。結構距離ありますね!)



いろんな立場、いろんな価値観を持つ人たちが、サウナでは真っ裸でフラットな状態になります。そこは公正で神聖な場所。議論はダブー。そんな場所だからこそ、男性たちの話が余計に心に響いてくるのでしょう。

フィンランドや日本をはじめ、世界中の、特に男性は、外で声を出せない人が意外と多いのかもとヨーナス監督。例え飲んで食べて発散できたとしても、「サウナ」というもう一つ、自分をリセットできる手段、選択肢が増えると、男性はもっと楽に生きられるのではないか。

男性たちがそうできるような世の中に、「変えることができたら」というヨーナス監督の言葉が印象的でした。

サウナから人間の本質を垣間見ることができる映画『サウナのあるところ』。9月14日(土)より、アップリンク渋谷ほか全国順次公開中です。


サウナのあるところ
監督:ヨーナス・バリヘル、ミカ・ホタカイネン
2010年/フィンランド/フィンランド語/ドキュメンタリー/81分/原題:Miesten vuoro/英題:Steam of Life
後援:フィンランド大使館、公益社団法人 日本サウナ・スパ協会
提供・配給:アップリンク + kinologue
https://www.uplink.co.jp/sauna
▼予告編
https://youtu.be/v6-L4i2n7P8

アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺、新宿シネマカリテほか全国順次公開中

©2010 Oktober Oy. 

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