2018/04/23

【特集】各国の映画祭を席巻!スウェーデン映画『ザ・スクエア 思いやりの聖域』リューベン・オストルンド監督インタビュー

スウェーデンのリューベン・オストルンド監督最新作
『ザ・スクエア 思いやりの聖域』が4月28日に公開!
各国の映画祭を席巻した本作で、何を伝えたいのか?!



4月28日公開の映画『ザ・スクエア 思いやりの聖域』。人の愚かさや滑稽な部分を皮肉たっぷりに描き、世界に衝撃を与えた『フレンチアルプスで起きたこと』(15)のリューベン・オストルンド監督による最新作で、カンヌ映画祭でパルムドールを受賞、本年度のアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされ、世界中の映画祭をざわつかせました。

今、北欧のみならず世界の映画界で熱い注目を浴びるリューベン・オストルンド監督が、2011年の東京国際映画祭で上映された『プレイ』の授賞式以来2度目の来日。『ザ・スクエア 思いやりの聖域』に込めた思い、監督が伝えたい、描きたかったこととは?またなんと、惜しげもなく次回作についても、ポロリどころかオープンに話してしまう事態に!?

――監督が本作で監督が描きたかったことは?

オストルンド監督:
日本やアジアはよくわからないけれど、西洋社会では、「クリック経済」というものが頻発しています。たとえば政治の世界でいうと、某国の大統領。とにかく露出が多いので、彼に票が集まるという現象が起こっています。またメディアの中で、彼は良くないんじゃないかと否定的なことを書いたとしても、それが逆に注目を集めることになります。私が描こうと思ったのは、世の中がある種の“メディア危機に陥っている”ということ。

もう少し付け加えると、政治家は物議を醸して、わざと議論を招くようなことをしています。注目されることが一番で、内容は二番手。政治、民主主義にとって恐ろしいことが起こっていると思います。

映画の中のアート作品「ザ・スクエア」は、アートのテーマとして全く物議を醸すようなプロジェクトではないので、物議を醸すような内容をわざと流して注目を集めようとしました。私はメディアのこういう部分が嫌いなんです。そしてこれは問題であり、非常に恐ろしいことだと思ったのでこういう映画を作りました。

――スウェーデンでも同じようなことが起こっている・・・?

オストルンド監督:
スウェーデンでも、第一面に載るのはセンセーショナルなものばかり。すでに存在する対立や問題に頼っているだけでなく、さらには、対立や問題をわざと作り上げていることが起こっている。そのことに批判しているのがこの映画です。ジャーナリズムが、経済に結びついていることも問題だと思いますね。「クリック・エコノミー」「アテンション・エコノミー」などと呼ばれています。注目されるとお金になるという経済の仕組みもまた問題です。



――この映画は「傍観者効果(※)」についても描かれていますが、なぜそのテーマを取り上げたのでしょう?(※ある事件が目の前で発生したとき、周りに傍観者が多いほど、見て見ぬふりをしてしまう集団心理)

オストルンド監督:
この映画のスターティングポイントは、映画『プレイ』(11)です。たくさんの人がいるのに、誰も助けないという傍観者効果が起こっていました。そいうった傍観者行動を変えようと思って、「ザ・スクエア」のアートプロジェクトを実際に始めたんです。そこにいる人は、自分の責務として何か人のためにしなければならないという傍観者効果を破るものにしたかったんです。

なんて冷たくてエゴイスティックな社会なんだろう、と批判する人がいるけれど、傍観者効果は人という動物が本来持っている“群れ行動”の一つ。では、それを変えるにはどうしたらいいんだろうと考えるのが社会学。そこを追求していくのが面白いと思いますね。

たとえば、「社会契約(ソーシャルコントラクト)」。スウェーデンではベビーカーで寝ている赤ちゃんを屋外に放置して、親はカフェの中でお茶をするという習慣があるけれど、アメリカでそんなことをしたら誰かが赤ちゃんを連れていってしまうと言われます。それはもちろん、国や社会契約が異なると違ってきます。横断歩道は素晴らしい社会契約だと思ますね。そこに政治や宗教は関係ない。

日本では自転車を借りたら鍵をかけなくても大丈夫なんですよね?
え、ダメ??盗まれる・・・?
おかしいなぁ~そうやって聞いたことがあったんだけどなぁ~。

(監督、ガッカリさせてしまいごめんなさい。いくら日本とはいえ、自転車は結構盗難が多いと思います。財布が戻ってくる確率が他国と比べて高いという話は聞いたことがありますが・・・)



――『プレイ』では格差や移民問題を、『インボランタリー』では不条理や人の愚かさが描かれていました。『ザ・スクエア 思いやりの聖域』ではこれらが全て含まれていると思います。監督にとって映画を作るときの共通テーマになっているのでしょうか?

オストルンド監督:
おっしゃるとおり、『ザ・スクエア 思いやりの聖域』では、『プレイ』や『インボランタリー』で描かれたテーマを扱っていると思います。アートインスタレーションとしての「ザ・スクエア」は、「文明とは何か」というテーマを投げかけています。このテーマは、今スウェーデン社会が抱えている問題でもあります。それは移民だったり、多様性だったり。こういったテーマも続けていきたいけれど、私は、人に何かが起こったとき、人がどのように行動するのか、人間の行動を観察して見ていきたいと思っています。

――監督の作品は、鋭い人間考察や我々人間の痛いところをついてくるという点が特徴的ですが、次回の作品もそういったところを見ることができそうでしょうか?お答えできる範囲内で!

オストルンド監督:
次回は、「トライアンギュラー・オブ・サッドネス(Triangular of Sadness)」という作品で、ファッション業界の話です。妻がファッション・カメラマンなんですが、ものすごい面白い話をしてくれるんです。

美しさというのは「価値」で、大げさにいうと、才能がなくてもお金がなくても、名家でなくても、美しさがあれば、社会の上層部に駆け上がっていけるという、ある種、「不公平な世界の公平さ」だと思うんですよね。美しさは遺伝的に宝くじを引いたようなもので。

主人公は男性モデル。社会の上層部に駆け上がっていくのですが、あるとき、髪の毛が薄くなってきた。ということは、美しさという“経済的な価値”が減ってきて・・・。

3つのパートに分かれていて、最初はファッション業界、贅沢なクルージング、最後は無人島に移るという流れ。もう少し聞きたい?

(「新作も好きなだけ書いていいから!結末も言っちゃおうか?」と、ものすごく話したそうにされていましたが、「ダメです!見たいし、楽しみにさせてください」とストップをかけさせていただきました。今作は「四角」でしたが、次回作は「三角」?!ということで、楽しみにしておきましょう!このあたりの余談はブログで触れますね。ご興味ある方はご覧ください!)

――映画を見て、監督が注目してほしい、議論してほしいことはありますか?

2005年にスウェーデンに初めての物乞いの人が現れ、話題になりました。ルーマニアからの移民です。それまでにスウェーデンの人は見たことがなかったので、初めはどうすればいいのかわからなかった。彼らに、個人で何かしてもいいのか、社会がやるのか・・・。

私たちはなんで社会を形成しているのか、どうして税金を集めているのか。どこが個人の問題であって、どこが社会の問題であるのかを考えないといけないと思います。そのあたりも踏まえて見てもらえたらいいですね。

――ありがとうございました!



ザ・スクエア  思いやりの聖域
監督・脚本:リューベン・オストルンド『フレンチアルプスで起きたこと』
出演:クレス・バング、エリザベス・モス、ドミニク・ウェスト、テリー・ノタリー他
2017 年/スウェーデン、ドイツ、フランス、デンマーク合作/英語、スウェーデン語/151分/DCP/カラー/ビスタ/5.1ch/
原題:THE SQUARE/日本語字幕:石田泰子  後援:スウェーデン大使館、デンマーク大使館
配給:トランスフォーマー
http://www.transformer.co.jp/m/thesquare/

ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamura ル・シネマ、立川シネマシティ他
4月28日(土)全国順次公開!


© 2017 Plattform Produktion AB / Société Parisienne de Production / Essential Filmproduktion GmbH / Coproduction Office ApS

▼『ザ・スクエア 思いやりの聖域』とは?
皮肉たっぷりのユーモアで、観る側を挑発!映画『ザ・スクエア 思いやりの聖域』(4/28公開)

▼オストルンド監督作『プレイ』(2011年東京国際映画祭で監督賞受賞、カンヌ映画祭国際映画批評家連盟賞受賞)と、『インボランタリー』(2008年カンヌ映画祭でプレミア上映)をご紹介しています!
リューベン・オストルンド監督特集鑑賞レビュー@ スウェーデン映画祭2015

▼ブログでは、監督の次回作についてもちょこっとだけ触れています。気になっている方はぜひ。
また、監督の映画予告に対しての持論も披露されています。
https://ameblo.jp/hokuwalk/entry-12369631983.html

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