2017/12/05

【特集】大きな挑戦だったのは「正しく撮る」ということ――映画『ヒトラーに屈しなかった国王』エリック・ポッペ監督インタビュー

ノルウェー映画『ヒトラーに屈しなかった国王』公開にさきがけ、
制作裏話や見どころなどをエリック・ポッペ監督に直撃!

第二次世界大戦中、ナチス・ドイツ軍がノルウェーの首都オスロに侵攻し、降伏を求めるドイツ軍に対し、当時のノルウェー国王・ホーコン7世は、ノルウェー政府とともにナチス・ドイツに抵抗。歴史に残る重大な決断を下す運命の3日間を描いたノルウェー映画『ヒトラーに屈しなかった国王』が、12月16日(土)より、シネスッチ銀座ほか全国順次公開になります。

昨年、国民の7人に1人が鑑賞したというノルウェー国内で興行成績第1位を記録し、ノルウェー・アカデミー賞(アマンダ賞)8部門(作品賞・助演男優賞ほか)受賞、アカデミー賞®外国語映画賞ノルウェー代表に選出された本作を手がけたのは、エリック・ポッペ監督。紛争地域に出向くジャーナリスト出身という、異色の監督の前作は、日本でも2014年に公開されたジュリエット・ビノシュ主演『おやすみなさいを言いたくて』。戦場に赴くカメラマンの主人公の女性が、家族と仕事の狭間で揺れ動く葛藤を描いた作品です。

ノルウェー王室の協力を得て、実際に使っている部屋や庭園などでも撮影されたという『ヒトラーに屈しなかった国王』。劇場公開にさきがけ、エリック・ポッペ監督が来日。映画界に物申したいこと、映画に対する情熱も熱く語ってくれた監督。なぜ、この題材を選んだのか、苦労した点や見どころなどを教えてもらいました。


――前作の『おやすみなさいを言いたくて』は、主人公の女性が家族と仕事の間で揺れ動く心の動きや、紛争地域での様子なども非常にリアルに描かれ、胸を打つ作品でした。今回は時代もの、第二次世界大戦中のノルウェー国王を描いていますが、なぜ、この題材を選んだのでしょうか?

ポッペ監督:
前作は自分のプライベートがメインとなった作品でした。私と妻、2人の娘の話。自分の経験をもとに制作しました。今回は、家族を持つ人としての「王」というのに、とても惹かれたんです。いったい彼は家族としてはどんな人なのか、公的な王という立場の裏ではどんな顔を持っているのかをとても知りたかった。親密なポートレートを描きたかった。といっても、ヒーロー像ではなく、真実に迫るものをね。広範なリサーチを重ねに重ねて、十分な資料を得るまで、何年もかけて制作しています。ノルウェー王室の協力のもと、それが可能になりました。



――冒頭から非常にリアリティあふれる映像でしたし、頭上を飛び交う爆撃機や、逃げ惑う人々の様子など、大変リアルでした。苦労した点や難しかったところ、また、監督が気に入っているシーンはありますか?

ポッペ監督:
一番大きなチャレンジだったところは、「正しく撮る」ということ、「史実にもとづくこと」でした。ハリウッド的な大げさな感じにしてしまうと、リアリティがなくなる。ノルウェーの人々はもちろん、歴史学者たちに、「あれはウソ」と言われてしまうことは避けたかったんです。

気に入っているシーンは・・・そうだな・・・うーん、凄く難しいですね。(迷いに迷って)強いていえば、別れのシーンでしょうか。当時と同じ場所で撮影しました。役者一人ひとりと練習し、撮るのがとても大変でしたね。当時みんなたくさん泣いたそうです。私は役者に泣いてほしいと頼んではいなかったのですが、みんな泣いていました。王室の荷物係だった人がまだ元気でいらして、当時と同じ場所で同じことが起こったことに鳥肌が立ったと。それだけリアルで同じ状況が起こったんです。

――同じ場所で同じことが・・・!凄いシーンでしたね。当時を知る人はなおさらぐっと来たでしょうね…。ところで監督は、今後どんな作品を撮りたいですか?次回作は2011年にノルウェーのウトヤ島とオスロで起こった銃乱射事件を描いた映画になると聞きました。実際に起きたものをもとにした作品にしたい・・・?

ポッペ監督:
今後撮るものに関しては、実際にあったものとは限らないですね。自分以外のことで制作した映画は本作の『ヒトラーに屈しなかった国王』が初ですが、これまでは自分の経験にもとづいて4作制作しています。自分の中では、『おやすみなさいを言いたくて』、『ヒトラーに屈しなかった国王』、そして次回作として考えている若い人たちの犠牲者が出たウトヤ島を題材にした作品を、民主主義3部作だと思っています。『おやすみ―』は個人的な視点、『ヒトラー―』は王として、リーダーとしての立場からの視点、ウトヤ島の映画は若い犠牲者について。この事件で69人の死者、300人以上が傷つきました。また自分の経験にもとづいた映画も作ろうと思いますし、2011年の事件の映画のあとに何を作るかは、まだわかりません。

頭に来ていることは、ここ10年くらいに作られた映画は、人間性が描かれていないものが多すぎるということ。もちろん、人間性に思いやりがあったり、地球に対して思いやりのある素晴らしい映画も中にはありますが、ほとんどの映画が、私たちが今住んでいる社会や世界とかけ離れているものが多い。テレビのニュースをはじめ、大手メディアが非常にシニカルな情報を流しているので、それが映画産業に流れついてきているのではないかと感じています。他国からも制作依頼を受けますが、どれも数年かける価値のない脚本ばかり。現実と全くかけ離れているんです。強調したいのは、リアルなものを作ることが、今大きな挑戦となっています。作られても、なかなか配給されにくいという現状があります。



――なるほど、確かに現実とかけ離れている作品のほうが映画館で上映されている感じは否めませんね・・・。それでは最後に、『ヒトラーに屈しなかった国王』の見どころや、日本の人に注目してもらいたいポイントなどを教えてください。

ポッペ監督:
歴史ドラマをもっとオープンで、コンテンポラリーなものにしたかったんです。ドキュメンタリー的にシーンをワンテイクで撮ったり。クルーも多く、クレーンもあったんですが、あえて手持ちカメラで撮ったりね。いろんなことをやってみました。歴史ものだけれど、リアルさを出したいと思い、ディテールに関してもリアルさを追求しました。役者さんとは通常、3~4週間なのですが、4ヶ月みっちりとリハーサルをしましたよ。非常に入念なリサーチと準備をして、制作に4年かかった作品です。

あと、ぜひ楽しんでいただきたいポイントは、ホーコン7世を演じた役者、イェスパー・クリステンセンの演技。現存する素晴らしい映画スターの一人です。また本作は、国民のために立ち上がるリーダーを描いているのですが、自分たちの国のリーダーはどうだろうか、国民のために立ち上がるリーダーを求めていいんじゃないかといったことを、あらためて考える機会になったらと願います。この映画を通じて、小さな革命が起きればいいなと思いますね。

――4年かけて緻密に丁寧に制作された作品だということに納得しました。もっといろんなお話が聞きたいところですが、お時間いただき、どうもありがとうございました。Tusen Takk!

ポッペ監督:
(にっこりと笑って)こちらこそTusen Takk!





ヒトラーに屈しなかった国王

出演:イェスパー・クリステンセン、アンドレス・バースモ・クリスティアンセン、カール・マルコヴィクス
監督:エリック・ポッペ「おやすみなさいを言いたくて」  
製作:ピーター・ガーデン「メランコリア」「ドッグヴィル」  
2016/ノルウェー/ノルウェー・独・デンマーク・スウェーデン語/136分/DCP/
配給:アット エンタテインメント
http://kings-choice-jp.com/

(C)2016 Paradox/Nordisk Film Production/Film Vast/Zentropa Sweden/Copenhagen Film Fund/Newgrange Pictures

12月16(土)より、シネスッチ銀座ほか全国順次公開

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北欧区ブログ記事:https://ameblo.jp/hokuwalk/entry-12333898722.html

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