2014/10/30

【特集】ベント・ハーメル監督と女優アーネ・ダール・トルプさんも来日!『1001グラム』 第27回東京国際映画祭

ノルウェーのベント・ハーメル監督最新作『1001グラム』。
来日した監督と、主演女優アーネ・ダール・トルプさんの
上映後の記者会見の模様もあわせてどうぞ!


『1001グラム(1001 Grams)』(アジアン・プレミア)
1001 Grams / Ane Dahl Torp * BulBul Film / Pandora Filmproduktions / Slot Machine * Photographer: John Christian Rosenlund ©


重量の基準となる1キログラムの「キログラム原器」を保管する測量研究所で働く主人公マリエ。ある日、病気の父の代わりに各国の代表が集まるパリの学会に「キログラム原器(※)」を運ぶことになり、そこで1キログラムという物理的な重さとともに、心の重さも体験していきます。

「人生で最も重い重荷は、背負うものが何もないこと」
主人公マリエが尊敬する父が発した、映画を象徴する言葉。
聞いた瞬間から、その言葉が頭から離れず、ずっとずっと考えていました。

冒頭から流れるメランコリックなメロディ、整然と並んだ家、清潔な職場、無機質な動き、数字が全ての緊張感ある仕事、責任、孤独、自分を抑えた暮らし・・・
周りと壁を作っているようなマリエにとって、唯一の拠りどころであり、人間らしさを取り戻せるのが父親の存在。

父親とノルウェー料理の話をしているときに、字幕では「シチュー」と訳されていましたが、ポルトガルが発祥のタラを使った煮込み料理「バカラオ」と言っていたと思います。ノルウェーの家庭料理としてもよく食べられる料理だそうで、ほっと息をつける自分の家族と囲む料理、というのが伝わってきます。

『キッチン・ストーリー』や『ホルテンさんのはじめての冒険』のようなシュールさ、ブラックなところといった独特な“ノリ”を期待していたため、少々驚きつつ、全く異なる洗練された雰囲気ではあったものの、チャーミングな登場人物やていねいな描き方はやはりベント・ハーメル監督の世界。

人は生きてくうえで、数字に縛られたり、数字で解放されたりする生き物なのか。
背負っていた荷物を降ろしたときに見えてくる景色とは、命の重さとは。

ノルウェーの舞台は、緊張感のある無機質な雰囲気を出しているが、神経質な感じはせず、どこか人間味があり、あたたかさを感じるのは北欧ならではの空気感のようにも思えます。パリの舞台となるところのほうが、より建物も庭も有機的。

重さを表す数字という視覚的なものから、植木の花を植えるために土に触ったり、鳥の声の音の違いに耳を澄まして感動したりという、より感覚的なものに移行していくマリエの表情、心の動きも見どころです。

少しずつ、心と体の距離が近づいていくラスト。
「一緒に森へ行かない?」って言葉は、心をほぐす魔法の言葉。


(c)2014 TIFF

会見では、ベント・ハーメル監督と主人公マリエを演じたアーネ・ダール・トルプさんが登場。アーネさんより少し前に来日していた監督は、これまでの作品も日本で公開されており、『1001グラム』もまたロングライドより配給されることについて、「このお付き合いがこれからも続いたら嬉しい」と、感謝の意を述べました。

日本に到着したばかりのアーネさんは、低音のクールなヴォイスとキュートな笑顔で、「ノルウェーでは日本は憧れの地。周りのみんなが羨ましがっていた」と初来日の喜びを言葉にしてくれました。

― 主人公に初めて女性を起用した理由は?
監督:今回初めて主人公に女性を起用したけれど、女性としてではなく、人間としてアプローチした。もし男性を起用していても、そんなに変わらない描き方をしていたのではないかと思う。

数年前にアーネさんとハーメル監督の奥様が一緒にタクシー乗ったときに、「次は女性が主人公の作品をお願いしてみてください」「じゃあ言っておくわね」というやりとりがあったとか。今回、実は偶然アーネさんを主役に抜擢することになり、アーネさんと奥様は思わず笑ってしまったそうです。

― 「孤独」というのは、監督の作品の中の根底にあるテーマなのか?
それはムンクを生んだ国・ノルウェーの国民性などを象徴するものなのか?

監督:孤独というものは、普遍的なもので、ノルウェーだけでなく、世界中どこでも存在するもの。
アーネさん:孤独というのは私たちノルウェー人にとっても、とても大きな部分だとは思うが、これだけ世界中でハーメル監督の作品が受け入れられているということは、やはり孤独とは普遍的なものだと思う。

― アーネさんが感じるベント・ハーメル監督の特徴とは?
アーネさん:ドイツやフランスの有名な俳優たちも、ハーメル監督の作品ならぜひ出たい!と言うほど、現在のノルウェーを代表する名監督。「正確さ」がポイントで、小さななにげない動きの中にも、ひとつ一つ意味を持っている。これはハーメル監督の世界にある大きな特徴。

ラストシーンがまた、とてもチャーミング。脚本どおり?アドリブもある?と聞かれたアーネさんは、「ほぼ脚本どおり。でも、唯一ひとつだけ、私のアドリブがある」と裏話を教えてくれました。素敵なシーンなので、ぜひ劇場公開の際に探してみてください!

ベント・ハーメル監督作「1001グラム」はコンペティション部門受賞なるか?!31日に発表されます。
2015年全国公開予定!楽しみですね!
第27回東京国際映画祭は、10月31日(金)まで。

  
第27回東京国際映画祭
期間:2014年10月23日(木)~31日(金)
会場:六本木ヒルズ(港区)、TOHOシネマズ日本橋(中央区)、歌舞伎座(中央区)
公式HP:http://2014.tiff-jp.net/ja/
公式Facebook:http://www.facebook.com/tifftokyo.net
公式Twitter:@tiff_site
併設マーケット:TIFFCOM2014(Japan Content Showcase 2014)
10月21日(火)~10月23 日(木) http://jcs2014.com/ja/
チケット発売:10月11日(土)よりticket board にて発売開始
(チケット購入は、インターネット、電話、劇場窓口にて)
上映スケジュールなど詳しくは映画祭公式サイトをチェック!

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