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【展覧会レポート】フィンランド発展の一端を担ったフィンレイソン200年の歩み(京王百貨店新宿店)




昨年より新潟、京都、福岡、三重、大阪を巡り、9月21日から10月3日まで、首都圏初となる京王百貨店新宿店にて「創業200周年記念 フィンレイソン展 – フィンランドの暮らしに愛され続けたテキスタイル -」が開催されていました。1820年創業のフィンランド最古のテキスタイルブランド、フィンレイソンの創業200年を記念して企画された展覧会。本日は、会場レポートをお届けします。

また、京王百貨店新宿店のフィンレイソン展は閉幕しましたが、現在、山梨県富士吉田市にて、もう一つ、フィンレイソン関連イベントが開催されていますので、詳しくご紹介します!富士吉田市の催しは、アートをただ鑑賞するだけでなく、触って体感するインスタレーションや音楽、映像と、五感で楽しめるアートイベントになっています。



手描きのデザイン原画、貴重な資料から学ぶ、
フィンランドのテキスタイルの歴史と歩み。




1820年、フィンランド第二の都市タンペレで創業したフィンレイソンは、寝具等のデザインや生産を手掛けるフィンランド最古のテキスタイルブランド。小さな紡績工場だったフィンレイソンですが、その後、紡績工場内に学校や図書館、教会が作られ、フィンランドで初めて女性の雇用の場も提供しました。巨大なコミュニティを築き、タンペレはフィンランド最大の工業都市として発展。国の成長にも貢献してきました。

展覧会では、初公開となる当時の貴重な資料や、色鮮やかなデザイン原画、プリントテキスタイルを披露。1800年代の見本帳や製品、1900年代以降の代表的なデザイン生地や原画などの資料をはじめ、日本でも人気のクラシックデザイン、トレンドカラーやモチーフを捉えた現代のデザインなど、260余点の展示とともに、フィンランドで愛されてきたブランドの200年の歴史を魅力的に伝える内容になっていました。





第一章「地域社会を支えたタンペレ紡績工場」では、いかにフィンレイソンが、ホームテキスタイルを中心に人々の暮らしに浸透し、社会の発展を支えてきたかがわかります。ここでは、タンペレ歴史博物館が所蔵するアーカイブの中から、生地や製品見本、当時の広告物といった貴重な資料が披露されています。

「コットンはファッショナブル」「快適なコットンを着よう」と、コットン生地を広めるために、PMK(木綿工場販売事務所)とともに打った広告キャンペーンのポスターは、ポップでカラフルかつキャッチーなビジュアルが目を引きます。イメージ重視のグラフィックアートとしてシリーズ化された宣伝ポスターは、フィンランド国内の生地屋に配布されたとのこと。

第二章「フォルッサデザインアトリエの設立とデザイナーたちの活躍」では、1950年代から70年代のテキスタイルデザイン黄金期に誕生したデザイン、手掛けたデザイナーたちを紹介。フィンレイソン社は、1934年にフォルッサ社と合併。フィンレイソン・フォルッサ社となり、本社はタンペレに置かれ、織込み模様の生地はタンペレで、プリント生地はフォルッサで生産されるようになりました。

1951年にはデザインアトリエが設置され、社内デザイナーを登用。これまで海外に発注していたデザインを国内で制作出来るようになりました。会場では、フィンレイソンで数多くのプリントデザインを手掛けたアイニ・ヴァーリをはじめ、フォルッサ博物館所蔵のデザイン原画や生地が数多く展示されていました。その時々の流行や傾向を感じることができます。


展示スペースのある一角では、アイニ・ヴァーリのデザインがずらりと並んでいました。若い頃から多彩な才能を発揮してきたヴァーリのデザインの特徴は、モチーフが具象的で、遊び心があるところ。


アイニ・ヴァーリの「オンップ(リンゴ)」の復刻版。デザイナー監修のもと、2015年秋冬にリニューアルされました。オリジナルと異なるところは、リンゴの並び、そして、虫の姿やリンゴがかじられた跡を見ることができます。見ているだけで、とても元気が出てきそうなキュートなデザイン。(アイニ・ヴァーリさんは今年で91歳。フォルッサでお元気に暮らしていらっしゃいます)



1973年、フィンレイソン・フォルッサ社は、綿工業のポリンプーヴィ社と合併し、名前はフィンレイソン社となり、テキスタイルデザインとプリントはフォルッサに集約されることになります。1992年にフォルッサのアトリエは閉鎖してしまいますが、プリントは2009年までフォルッサで続けられました。フォルッサで栄えたテキスタイル産業は、現在でも地域のアイデンティティとして強く根付いており、地域で語り継がれているのだそう。フォルッサで生まれた数々のデザインには、フィンレイソンの、そしてフィンランドのテキスタイルの歴史が詰まっています。


ドレスの絵柄が次々と変わるインスタレーションも。


日本でもよく知られている象をモチーフにしたデザイン「エレファンティ」。1960年代の終わりに、デザインコンペに参加し、入賞したライナ・コスケラの作品。手描きのスケッチも必見。下絵を見ると、象の背中には日よけか鞍のようなものが描かれていましたが、デザインの最終段階で削除したそう。



▼ライナ・コスケラさん来日インタビュー(2015年)
【特集】フィンレイソンの人気柄「エレファンティ」のデザイナー、ライナ・コスケラさんインタビュー!


「アンヌッカ(女性の名前)」などを手掛けたミリヤ・ティッサリの作品たち。「アンヌッカ」(中央・ブルーの花)のモチーフは、2020年のフィンレイソン200周年のデザインに選ばれています。




フィンレイソンとムーミンのコラボレーションから生まれた作品も見ごたえがありました。1950年代に、トーベ・ヤンソンがフィンレイソンのためにテキスタイルのデザイン画を初めて描きました。1980年代に正式に契約を結び、リーサ・コタをはじめ、数多くのデザイナーによってムーミンのパターンが生まれています。


コレクション「ラッカリッカ」は、日本向けにデザインされたもの。フォルッサの主任デザイナーが3人のデザイナーに依頼したもので、フィンランドで伝統的に使われる木の実や草、花などのモチーフがあしらわれています。1979年の国内向け秋コレクションでもあったとか。茶系カラーのテキスタイルは1970年終わり頃の流行色。


アヌ・サーリが手掛けたインパクトあるパンダ柄で知られる「アヤトス(思考)」(2006年)(手前)。「アヤトスの笹」の柄(奥)は、アヤトスと対でデザインされたもの。人間と自然との関わり方、絶滅危惧種への懸念を伝えています。


2000年代を代表するデザイナーたちも登場。アヌ・カネルヴォは、2005年から2018年までフィンレイソン社でデザイナーとして勤務し、多数のカラフルな花や植物のデザインで知られています。手前の「ケイダス(オアシス)」は水彩の原画とプリント生地が並んでいたのですが、どちらも美しい絵画作品のようでした(手前が原画で、その隣の奥の作品が生地見本)。さらに隣奥には、リーサ・スーラの京都に咲く美しい春の花々をイメージしたデザイン「キオト(京都)」も。


会場外には、文化服装学院の学生による、フィンレイソンの生地を使用して制作された衣装の特別展示がありました。使用された生地には貴重なヴィンテージも含まれていたそう。



<フォトギャラリー>
※京王百貨店新宿店館内全て撮影許可がない限り、撮影禁止。画像は全て、許可を得て撮影したものです。


フィンレイソン展会場外のディスプレイ。


フィンレイソン展グッズコーナー。


同じフロアで開催されていた物販イベント「北欧屋台」より。隣ではミッフィー展が開催されていました。




京王百貨店新宿店1階入口のディスプレイ。



創業200周年記念 フィンレイソン展
日程:2022年9月21日(水)~10月3日(月)
会場:京王百貨店新宿店 7階大催場 ※終了しました

<巡回先情報(予定)>
2023年1月21日(土)~3月26日(日) 長崎県美術館 他

▼フィンレイソン展公式ウェブサイト
http://www.finlayson.jp/new/www.finlayson.jp/html/page15.html



テキスタイルの産地、山梨県富士吉田市にて、
触れて学べる、体験型アートイベント開催中。




1951年、フォルッサに、フィンレイソンのデザインアトリエが設立されました。フォルッサ博物館には、フィンレイソンのプリントテキスタイルの原画やサンプル生地が所蔵庫に保管されており、「フィンレイソン展」での展示品の約半分は、フォルッサ博物館からのものです。

そのフォルッサ博物館では、今春「クオシケスクス」というパターンデザインセンターがオープンし、フィンランドプリントテキスタイルの変遷を学べる参加型のミュージアムとしてフィンランド国内で話題を呼んでいます。

▼「クオシクスケス」紹介記事
フィンランドのフォルッサにテキスタイルデザインセンター「クオシケスクス」開館(北欧ニュース:2022/05/10)

10月1日(土)より、そのクオシケスクス初の出張展となる「旅するテキスタイル フィンレイソンのプリントが生まれた町、 フォルッサより」がスタート。また、フィンレイソンとフォルッサの関係を解説したパネル展「フィンレイソンとフォルッサ」も併催されます。

フィンレイソンの生地などが展示されるだけでなく、フィンランドのテキスタイルをもっと身近に感じてもらいたいと、富士吉田市のイベントでは、参加型・体験型のアートイベントになっています。展示されるプリントテキスタイルは他会場では披露されていないもので、本邦初公開のものだそう。

テキスタイルのことを学んだり、ミュージシャンによるパフォーマンスや映像も楽しめたりと、五感でフィンレイソンのテキスタイルの世界を堪能できる内容になっています。会場は、旧富士製氷だったという場所をリノベーションした複合施設「FUJIHIMURO」。気になる人はぜひ足を運んでみてくださいね。

旅するテキスタイル~フィンレイソンのプリントが生まれた町、 フォルッサより~
併設パネル展「フィンレイソンとフォルッサ」

会期:2022年10月1日(土)~30日(日)
会場:FUJIHIMURO(山梨県富士吉田市富士見1-1-5)
開場時間:11~17時
開館日: 金、 土、 日、 月
https://you-fujiyoshida.jp/diary/fujihimuro-news/5342


フォルッサ博物館より ※写真提供:クオシケスクス


今でもフィンレイソンのロゴが残るフォルッサの工場跡


フォルッサに設立されたフィンレイソンのデザインアトリエ(1950年代の様子)



フィンレイソン日本公式ウェブサイト:http://www.finlayson.jp/
フォルッサ博物館:https://www.forssanmuseo.fi/



(2022年10月12日更新)
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