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【映画】お伽噺や神話が織り込まれたエストニア発ダーク・ファンタジー『ノベンバー』(10/29公開)




北欧では、太陽が出ている時間が徐々に短くなり、11月は暗くて寒い上に雪もなく、イベントも少ないため、1年で最も鬱々とする(心理的にも)月の一つだと聞いたことがあります。12月になり、クリスマスムードで街が華やぎ、雪が積もると、とたんに明るい気分になるとか。雪が積もると、暗くなっても反射して、街が明るく感じるそうです。(濃い美しい青に包まれる感じに)

そんな暗くて寒い、本格的な長い冬が始まる11月、エストニアの寒村で摩訶不思議な出来事が起こるエストニア映画『ノベンバー』が劇場公開されます。



魂を悪魔に売ってでも、モノや心を奪おうと試みる
不器用な人間たちの欲深さ、醜さ、切なさをあぶり出す
モノクローム・ダーク・ラブストーリー




舞台はエストニアのとある寒村。11月、ここでは、「死者の日」を迎えようとしていました。死者の日とは、10月31日のハロウィンから、11日1日は「All Saints’Day」、11月2日は「All Souls’Day」と続き、All Souls’Dayは、亡くなった先祖を思い出して追憶する日なのだそう。「万霊節」とも訳され、日本では「お盆」に該当するといわれています。戻ってきた死者は家族を訪ね、一緒に食事をし、サウナに入ります。

この村では、ちょっと不思議なことが起こっています。精霊、人狼、疫病神が徘徊する中、“使い魔クラット”というものが存在します。貧しい村人たちは、物置の道具で作られた自立可能な歩行ロボットのような姿の“使い魔クラット”を使い、隣人から物を盗みながら、極寒の暗い冬を乗り切るべく、各人が思い思いの行動をとっているのです。

そんな中、農夫の一人娘リーナは村の青年ハンスに一途な想いを寄せていたのですが、当のハンスは、領主であるドイツ人男爵の娘に恋していました。そのハンスは、男爵の娘を振り向かせようと、森の中の十字路で悪魔と契約を結んでしまうのですが……。



原作は、エストニアの代表的作家、アンドルス・キビラークのベストセラー「レヘパップ・エフク・ノベンバー(Rehepapp ehk November)」。本作は、学生の頃から「映画の神童」と呼ばれ、ドイツ映画の旗手ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーを熱烈に支持するライナー・サルネ監督が、“すべてのものには霊が宿る”というアニミズムの思想をもとに、異教の民話とヨーロッパのキリスト教神話を組み合わせて映画化。独創的かつ映像の美しさが高く評価され、2018年アカデミー賞外国語映画賞のエストニア代表に選出。日本では、第10回京都ヒストリカ国際映画祭で上映され、高い評価を得た作品です。

本作に登場する「クラット」という使い魔は、古いエストニアの神話に登場する生意気な精霊。クラットの体は、家財道具の釡や斧、雪や頭蓋骨などで作られています。農家の助け手として、家畜や食料を盗んだり、スケープゴード(家財道具の盗難を彼らになすりつける)として扱われたり、さらには愛の問題についての助言まで!

多くの役割をこなしているクラットですが、十分な仕事が与えられないと気性が荒くなり、「仕事をくれ!」と言って主人の顔に唾を吐くことも。サルネ監督は、この邪悪で、どこかちょっと愛嬌のあるクラットを、CGに頼らず細いワイヤーを駆使した演出にこだわりました。お伽噺に出てきそうな不思議な精霊「クラット」は存在感たっぷり。作品にユーモアやファンタジックな魅力を添えています。


何かと存在感のある使い魔の「クラット」


本作は、エストニア、オランダ、ポーランドの共同作品で、撮影は2014年から2016年までの2年間、断続的に計60日間かけて行われました。全編モノクロームの怖くも美しい陰影の世界が特徴で、その映像美に世界が絶賛。また、ドイツ表現主義映画への敬意とともに、美しいお伽話、悪夢的世界の要素、世界中の神話や古典映画からの影響を受けており、それらが幾重にも織り込まれ、摩訶不思議な世界が表現されています。

この映画は、色がないことで、例えば、登場するお金持ちと貧しい村人との区別がより明確になり、色彩では表現できない役者の感情を、より強く表現することができるとサルネ監督。周りの景色よりも、鮮明に登場人物にフォーカスされる効果もあるのだとか。



モノクローム映像が、より怖さとファンタジックな雰囲気を出していて、クラットのような精霊や、生きているのか生きていないのか、魂があるのかないのか、不思議な世界の中で、不自然なはずのものが、あたかも自然に人々の生活の中に存在しているのを見て、ジブリのような世界観も感じました。モノクロームの世界、美しい陰影など、描写にくぎ付けになること間違いなし!

カメラワークも非常にユニークで、お伽噺や神話がミックスされていて、ファンタジーで。ホラーなのか、ブラックユーモアなのか。または、コメディなのか、ラブストーリーなのか。クラシックなのか、逆にとてもモダンなのか。さまざまな矛盾と滑稽さに、最後まで入り込んでしまう作品。

エストニア(他合作)映画『ノベンバー』は、ハロウィン直前の10月29日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開!



ノベンバー

監督・脚本:ライナー・サルネ
原作:アンドルス・キビラーク
出演:レア・レスト、 ヨルゲン・リイイク、 ジェッテ・ルーナ・ヘルマーニス、 アルヴォ・ククマギ、 ディーター・ラーザー
2017年/ポーランド・オランダ・エストニア/B&W/115分/5.1ch/16:9/DCP/原題:November/日本語字幕:植田歩
提供:クレプスキュール フィルム、 シネマ・サクセション
配給:クレプスキュール フィルム
https://november.crepuscule-films.com/

2022年10月29日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

©Homeless Bob Production,PRPL,Opus Film 2017




(2022年09月27日更新)
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