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【SDGs】サステナビリティに気候政策、世界トップを走るスウェーデンはどうやって目標を達成しようとしている?



お話を聞いたのは、スウェーデン大使館で経済・貿易を担当する一等書記官のグスタフ・ヴィーンストランドさん。昨年4月から駐日スウェーデン大使館に赴任。

10月末から11月中旬にかけて開催されていたCOP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)〔10/31-11/13〕に関連して、現在、駐日スウェーデン大使館にて、展覧会「Pioneer the Possible」が一般公開されています。

どんな展覧会かというと、「パリ協定」を達成するために、スウェーデンの持続可能な環境政策、気候目標、戦略、官民がどのように協力しているか等、サステナビリティの実現に向け、変革を推進するさまざまな分野のスウェーデン企業の具体的な取り組み例がパネル展示とともに紹介されています。

この分野では、世界のトップを走るスウェーデンですが、1990年頃から20~30年かけて少しずつ変えてきました。サステナビリティ、気候政策、SDGsなど、耳にするけれど、スウェーデンは、実際、どんな風に始めて、取り組んで、目標を達成してきたのでしょうか。

物流の運送距離が長く、冬季は非常に寒くなるスウェーデン。これらの要素は、温室効果ガスの高い排出量の原因になるのではと言われるようですが、同国では、1990年以降、低ガス排出量と堅調な経済の両立に成功しています。事実、スウェーデンではGDPが86%上がったのに対して、同時期にガス排出量は30%近く低くなっています。

転機となったのは、1991年に導入された炭素税(※)ですが、それ以前からスタートしている取り組みもあります。スウェーデンは一体どのようにして達成してきたのでしょうか。まずは、同国の目標や政策から確認していきましょう。

キーワードは、「化石燃料フリー」「温室効果ガス排出削減」「オール電動化」。

※炭素税:石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料に、炭素の含有量に応じて課す税金。1990年にフィンランド、1991年にスウェーデン、ノルウェー、1992年にデンマークと、世界に先駆けて北欧が次々と導入。

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スウェーデンの気候目標、環境政策とは?
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●スウェーデンの国家レベルの目標は、遅くても2045年までに温室効果ガスのゼロ排出を達成し、以降もゼロ排出を継続すること。
●目標は、(1990年と比較して)2030年までには63%削減、2040年までに75%削減。
●気候目標をベースとした政策を、現状とこれからの政府に義務付けることにより、企業等が環境変化に対応しやすくすること。
●独立した専門機関である気候政策評議会を設置(政策の進捗状況を管理したり、2045年までの目標に沿っているかどうかについて評価する役割がある)。
●2030年までに100%化石燃料フリーな電力生産。2030年までにエネルギー効率を50%引き上げ(2005年と比較して)。

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環境対策と持続的競争性を促進させるためには?
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●気候関連の可能性調査の産業開発向け補助金、研究プログラム及びパイロット・実証実験等を進める。
●化石燃料(ガソリン、ディーゼル)からバイオ燃料への転換により、排出量を削減。年強サプライヤーは毎年決まった割合で排出削減の義務付け。
●CO2排出量が比較的少ない新規軽自動車に対して奨励金、またCO2排出量が多い車両へは所有3年目までは課税等の罰則。
●大型車両の電動化に対する奨励。
●政府のグリーン認定による、環境及び気候変動目標の達成をサポートする大型投資の斡旋。

<現状>
水力から原子力、バイオエネルギー、風力等の発電の普及により、化石燃料からの脱却を目指しているスウェーデン。そのため、同国の化石燃料の利用は、全体の電力の僅か1%程度。バイオ燃料と廃棄物燃料の利用を増やしており、地域暖房で化石燃料の使用は僅か1%程度に。地域暖房、熱ポンプの普及、住宅向け石油燃焼ボイラーの段階的廃止を進めています。さらには、埋立地用の有機性廃棄物を削減しています。進んでいるように見えるスウェーデンですが、同国としては、これらはまだまだ目指しているものとは程遠い状態だといいます。

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スウェーデン政府の取り組み
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■脱・化石燃料計画を進めるスウェーデン

企業と公共機関の橋渡しをする「スウェーデン脱化石燃料(Fossil-Free Sweden)」という政府の取り組みがあり、これは、企業、市町村や地方自治体、研究団体、市民団体等、500人以上の主要関係者で構成されています。

鉄鋼やコンクリート・セメント産業、航空産業、石油やバイオ燃料産業など、22もの産業部門が、2045年までのカーボンニュートラル達成に向けたロードマップを発表し、これらの行動計画は政府へ提出されています。

グリーン認定や産業開発向けの助成金、初期段階のリスク削減など、将来的に収益性が見込める技術の発展を促進するためには政府のサポートが重要です。例えば、送電網の容量増や充電施設工事の助成等による大規模な電動化の促進などがあります。

■運輸に関連する温室効果ガスの排出を70%削減へ

スウェーデン政府は、2010年から2030年にかけて、国内の運輸にかかる温室効果ガスの排出を70%削減することを目標に掲げています。陸空海において、脱炭素を達成するためには、電動化が不可欠。2030年までにオール電動化の達成が目標。

例えば、自動車産業は、2030年までに国内の新規自動車の80%が電池充電式、16トン以上の大型トラック等の50%を電動化することを公約しており、政府と企業間で目標達成に向けて協業しています。

<動き>
●充電施設インフラの拡大、電気道路も整備中。
●ガス排気量ゼロ車両の商業化に向けたパートナーシップが徐々に実現。
●ガス排出量の多い車両は重課税の対象に。
●林業や農業からの残留物からバイオ燃料を精製できるバイオ精製所も建設中。
●海事産業は、2045年までに国内運輸の化石フリーを目標に設定。
●航空産業は、2030年までに国内航空交通の化石燃料フリーを目標に設定。解決策は、バイオ燃料。電動化航空機も。

<コラム:グスタフさんのサステナブルライフスタイル(交通編)>

シベリア鉄道/写真提供:グスタフ・ヴィーンストランドさん


フェリーでウラジオストクから境港へ/写真提供:グスタフ・ヴィーンストランドさん


スウェーデン大使館で経済・貿易を担当する一等書記官のグスタフ・ヴィーンストランドさんは、CO2排出量を気にかけ、飛行機には極力乗らないそう。数年前、ご兄弟とスウェーデンから日本へ列車とフェリーで旅をしました。まずフェリーでヘルシンキへ行き、シベリア鉄道で約1週間、フェリーでウラジオストクから鳥取の境港に到着し、帰りも同じルートで帰国したそうです。

日本国内でも、新幹線や飛行機といったCO2排出量が多い交通機関より、少なめの夜行列車「サンライズ瀬戸」に乗って、直島などを旅したとか。また、日常生活でも、お子さんの送り迎えは自転車を利用。車は持っていないそうです。

▼参考データ(2018年):1キロメートルあたりの移動によるカーボンフットプリント(CO2排出量)


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各産業分野の企業の取り組み
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【運輸】
Volvo社とDaimler社:水素燃料電池で動く新世代長距離トラックの開発に向けて協業。2025年に初となる燃料電池システムが市販される予定。また、両社ともに、全電動トラックを商業ベースで発表しており、それらは既に街中を走っています。
Scania社:電動化されたシティワイドバスを発売。2030年までには販売車両の半分が電動化車両になると予測。
Volvoグループ:2040年以降は全製品が100%化石燃料フリーの車両になるとの目標を発表。
Stena Line社:1000人乗船可能、長さ200メートルある世界最大の電動化フェリー船を建造中。
Heart Aerospace社:2026年までに商用飛行認定を受けたオール電動化航空機の投入を計画。19人搭乗可能で飛行距離は400km。
電動バイクのCAKE社:新世代の高性能電動二輪車を開発。
Hybrit社とSAAB社:石炭不使用、化石燃料フリー鋼鉄で生産できる新しい技術の開拓に成功。2021年8月にはVolvo社へ世界初となる化石燃料フリー鋼鉄の納品が完了。2026年以降には新規車両全てに投入される予定。>>参考記事:化石燃料を使わないグリーンスチールで作られた自動運転のロードキャリア(荷物運搬車)
●ゴットランド島のEVの走行中に無線充電できる道路 >>参考記事


ボルボの全電気トラックは、2018年からヨーテボリで廃棄物を収集。

化石を含まない鋼、HYBRIT(Hydrogen Breakthrough Ironmaking Technology)技術を使用して、鉱石ベースの製鋼に従来必要とされていた原料炭が、化石を含まない電気と水素に置き換えられます。 その結果、二酸化炭素排出量がほとんどない、世界初の化石を含まない鉱石ベースの製鋼技術が実現。


【鉄鋼・セメント】
Hybrit社とCementa社:2026年までに大規模な化石燃料フリー鋼鉄が登場。2030年までにセメント生産はゼロに。
SAAB社:2026年までに実用規模での化石燃料フリー鋼鉄の実現へ。
Cementa社:2030年までにガス排出ゼロのセメント生産を目指す。
建設会社Skanska社:既にCO2排出量を半減したグリーンコンクリートを使用。

【食・ファッション】
まだ食用に適しているにも関わらず、毎年1300百万トンの食材が廃棄されているという現状があります。また、ファッションと繊維産業は世界のCO2排出量の10%を占めています。繊維のリサイクルは難しいといわれますが、現在は解決策があるといいます。

食料からファッションを含む、全てにおいての廃棄物を削減する必要があり、2035年までには市町村レベルの廃棄物の3分の2はリサイクル又は再利用を目指しています。

Karma社:廃棄食材を食物連鎖に留めることに尽力。廃棄食材アプリを通じてカフェやレストランで余った食材を割り引いて売っています。>>参考記事
IKEA・H&M:2030年までにリサイクル品もしくは持続可能な調達材料を使い、100%循環企業を目指します。(環境から取り除く資源を少なくし、利用するものは長く上手く活用。修理、リサイクル、再製〔3R〕)
IKEA:2028年までに消費者向け包装でのプラスチックの使用を段階的に廃止。再生可能な素材やリサイクル素材を使ったパッケージに順次切り替え。まずは、2025年までに新商品の包装材に、2028年までに既存商品の包装材に適用していきます。
H&M:聖ルシア祭で少女たちが着る白いガウンをリサイクル。小さくなったものを出して大きいサイズのものに変えてもらう仕組み。成長に応じて買い替えの必要もなく、伝統行事も守られます。
林業会社のSödra社:様々な材質の繊維のリサイクル品を売るプロセスを開拓。木材の繊維素に千草を混ぜ合わせて溶けかかっているパルプを作り、新しい服やその他繊維製品に利用。
Renewcell社:綿と繊維素の食物繊維を生物分解性のパルプにして高品質のビスコースやリヨセル繊維素を作ります。
Sysav社:世界最大の繊維仕分け工場を2020年に開場。Södra社とRenewcell社に繊維の原材料を供給。
Rave Review社:捨てられたファッション品を新しい衣服へ(アップサイクル)。




Favoは、持続可能性に重点を置いたスウェーデンのフードサービス。 電気自動車で食品を配達し、パッケージを減らし、持続可能性の概念に取り組んでいます。


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これからのビジネスモデルとは?新しいパートナーシップの重要性**************************************************************

Electrolux社とStena Recycling社:全く異なる産業畑ですが、協業してリサイクルされたプラスチックだけで出来たプロトタイプの掃除機を開発。製品の生命サイクルを終えても、90%がリサイクル可能。
IKEA:循環を完成させるために、キッチンを売るのではなく貸すことを開始。Tarkett社と組み、同社の店舗の廃棄されたプラスチック床をリサイクル、再利用。Tarkett社の技術は接着剤だけでなく、化学薬品を古い床から取り除いて、他店舗向けに再加工・再利用しています。
Site Zero社:2023年に開場した世界最大のプラスチックリサイクル工場。年間20万トンのプラスチック廃棄物のリサイクルが可能に。完全循環プロセス及び再生可能エネルギーのためCO2排出量もゼロ。


スウェーデンのライフスタイルに欠かせないフィーカ(コーヒータイム)。大使館のダイニング&キッチンで、コーヒーを淹れていただきました^^


<コラム:グスタフさんのサステナブルライフスタイル(フード編)>


スウェーデンではベジタリアン向けのフードが増えていて、全プロセスを通じてCO2排出量の高い食肉を食することが減ってきているといいます。肉の代わりになるのが黄エンドウ豆。

また、地産地消の意識も高く、近年は野菜も自国の温室で育ったフレッシュなものが食べられるようになりました。フードロス問題については、余った食材を廃棄する前に、学校や地元の施設で循環させ、フードロスをなくすようにしています。

日本のスーパーマーケットでは、やはり過剰な包装が気になったそう。

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多くの取り組みは地方から。草の根運動から世界規模へ
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スウェーデンは地方分権の考えから、都市計画から公共機関、または地域暖房や廃棄リサイクル等に関する政策の立案は市町村レベルで担っています。現場目線での対応は重要で、多くの取り組みは全国規模になる前に地方から始まっているそうです。

政策や立案者を動かすために、市民団体、地方レベルで、多くの非政府団体が様々な規模で、生産、刺激、活性化させることが大切。

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「全人類に関係すること」という認識を持つ
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気候変動を抑えるには、人類共通の課題。政治的な意思決定と産業界の行動、そして私たち一人ひとりの意識向上と行動が重要です。そして、それは1つの国だけでは実現できない、グローバルな長期課題。国境を越えて効果的に協力することではじめて解決することができます。

今回の展示は、連携を深めて、サステナビリティに挑戦しようとスウェーデンから日本への招待状。気候変動への関心を高め、対話や議論の場を築き、大学や科学センターといった場所で展示の場を広げて、ワークショップなども開催できたらとのことです。

展示を希望される大学、教育機関などがあれば、ぜひスウェーデン大使館まで!
(ご担当者:スウェーデン大使館 ヨハンソン弘美 様 hiromi.johansson@gov.se)

ぜひ刺激を受けに(!)、スウェーデン大使館にも立ち寄ってみてくださいね!



展覧会「Pioneer the Possible」

会場:スウェーデン大使館 ベルイマン展示ホール
日時:2021年11月2日(火)~開催中
※火木金の10:00~12:00
※予約および本人確認書類等は不要。
>>詳細はこちら


会場のベルイマン展示ホールには、体に嬉しい、スウェーデンの美味しいものにトライできる自動販売機がありますよ!


スウェーデン大使館を出て、向かいにある泉屋博古館(東京)の中に、HARIO CAFE 泉屋博古館東京店が10月にオープンしていました。大使館の帰りに立ち寄るのにぴったり。秋は紅葉、春は桜が美しい庭も。(博物館は2022年春リニューアルオープン予定)




(2021年12月16日更新)
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