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【イベントレポート】かつて男女格差があった先輩国スウェーデンから学ぶ!日本は男女平等を向上させるために何が必要か?



左からセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの堀江由美子氏、内閣官房内閣人事局企画調整官(女性活躍促進・ダイバーシティ担当)の永田真一氏、イケア・ジャパン代表ヘレン・フォン・ライス氏、ペールエリック・ヘーグべリ駐日スウェーデン大使、モデレーターを務めたジャーナリストの治部れんげ氏。

世界人権デーの12月10日、駐日スウェーデン大使館にて、人権についてのパネルディスカッションが開催されました。世界人権デーは、1948年、パリで開かれた第3回国連総会で「世界人権宣言」が採択されたことにちなみ、1950年の国連総会で制定された日。

登壇したのは、ペールエリック・ヘーグべリ駐日スウェーデン大使の他、イケア・ジャパン代表のヘレン・フォン・ライス氏、内閣官房内閣人事局企画調整官(女性活躍促進・ダイバーシティ担当)の永田真一氏、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの堀江由美子氏です。

今年2月、イケアが実施した「平等」に関するグローバル調査で、日本で「平等に関する意識の浸透が進んでいない」という現状が判明。家事育児に対する男女意識の格差、家庭や職場でのジェンダーハラスメントの課題、多様性に触れる機会の少なさが顕著に表れました。

この結果を受け、社会的性差に関わらず、個人が平等な状態にあることを意味する「ジェンダー平等(男女平等)」がパネルディスカッションの焦点となりました。スウェーデンと日本両国における平等や人権に対する職場や家庭での意識、かつて日本のように男女格差のある社会だったスウェーデンから見て、日本はどのようにすればいいのかなど、具体的な話が交わされました。

また、リモートでスウェーデンからアストリッド・リンドグレーン株式会社著作権管理者のヨハン・パルムベリ氏(アストリッド・リンドグレーンのひ孫にあたる)が登場。1979年にスウェーデンで体罰禁止の法律が制定されるきっかけとなったアストリッドのスピーチの話、現在実施している子供たちを守るための取り組みも話してくれました。


セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの堀江由美子氏


人権と​​は、社会に向けて発信していく権利でもある。
私達は、その権利の仕組みや制度を理解している?


みなさんは、「人権」と聞くとどういったことが思い浮かびますか?普段あまり意識して過ごすことは少ないかもしれませんが、私達が健康的で幸せに生きていく上で、非常に重要な身近なことの一つに数えられるのではないでしょうか。

印象的で分かりやすかったのは、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの堀江由美子氏が挙げた例。学校で習う「人権」は、「思いやりの心を持ちましょう」といったことは教えてもらうかもしれません。しかし、私達は一人ひとり、人としての権利があり、その権利は社会に向けて声を出すことができるということまで、あまり教えてもらっていないのではないだろうか――。

堀江氏は、「(人権は)一人ひとりが権利を持っていて、その権利を行使することができるというのを習わない。政府の責任が伴うものであるとか、権利を政府に対して求めること、社会に対して発信していく権利であることを教えないと。日本の学校では、自分の意見を言ってもいいのか?とまだまだ抑え込まれているように思える。権利の仕組みや制度も発信することが大事」と話しました。


イケア・ジャパン代表ヘレン・フォン・ライス氏


コロナで特に影響を受けた多くの女性たち。
女性の一人親、収入半減、または収入ゼロに。


今年の世界人権デーのテーマは、コロナの影響を踏まえたものになりました。イケア・ジャパン代表のヘレン・フォン・ライス氏は、「今年はコロナで世界が変わった」と切り出し、「人間として世界としても、共に復興を。協力して初めて達成できる。我々の弱みを共に解決していけると思う。今こそ人権の重要性を再確認するとき」だと話しました。

また、「平等は人権である」と考えるイケアは、全ての人に平等な機会が与えられる職場環境づくりに励み、男女差別なし、ハラスメント、敵意のない環境づくりに取り組んでいるとのこと。コロナは全ての人の生活に影響を与え、特に女性はより多くのサポートを必要としています。実は、日本の女性の自殺率が、昨年の10月より83%も増加しました。コロナで亡くなった人よりも、自殺で亡くなった人がのほうが多いという数字が出ています。

セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの堀江氏もまた、コロナで影響を受けた女性について言及。約9割が女性の一人親、約5割が収入半減、約2割が収入ゼロになったというデータを付け加えました。
一体何が起こっているのでしょうか。

「コロナで日本のウィークポイントが露わになった」と話すのは、ビデオメッセージで登場した内閣府 男女共同参画局長の林伴子氏。日本では、デジタル化の遅れ、雇用・DV・性暴力といった男女間のジェンダー平等問題が表面化しました。女性の社会進出はまだまだ低水準で、健康的で能力のある女性たちが能力を発揮できる場所がないというのが現実。


内閣官房内閣人事局企画調整官(女性活躍促進・ダイバーシティ担当)の永田真一氏

権利を知り、声を出して求めていかなければ。他人事にせず、社会全体で考えることが大切。

では、子供や女性のために何ができるのか、どう解決していけばいいのか。

パネルディスカッションでは、内閣官房内閣人事局 企画調整官(女性活躍促進・ダイバーシティ担当)永田真一氏から、日本の現状を聞きました。「戦後、貧しさの中で、家庭は主婦を主体としたスタイルになっていった。一時はこれが機能していたけれど、今は変えなければならない時代」と永田氏。人口が減少している日本で、女性のマンパワーは貴重。仕事を続けやすい環境を整えるためにも、家事育児は女性という風潮、意識をガラリと変えたいというところから、スウェーデンのパパたちが育児休暇中に家事育児に奮闘する姿を描いた写真展「スウェーデンのパパたち」に刺激を受け、「霞が関のパパたち写真展」を開催しました。

「多様な人の存在を認めること。やり直しを認めること。サードプレイス(生活の中心である自宅〔ファーストプレイス〕や、1日に多くを過ごす職場・学校〔セカンドプレイス〕ではない、心地良い第三の居場所。カフェや公園、創造的な交流が生まれる場所)を作ること。他人事にせず、社会で考えることが大切。それが幸せに繋がるのでは」と話しました。

今でこそジェンダーギャップ指数(※)世界4位のスウェーデンですが、最初から男女平等だったわけではありません。ではどのようにして、男女平等の国になっていったのでしょうか?

※ジェンダーギャップ指数2020
 >>資料
1位アイスランド、2位ノルウェー、3位フィンランド、4位スウェーデン、14位デンマーク、121位日本


ペールエリック・ヘーグべリ駐日スウェーデン大使


ヘーグベリ大使は、「ジェンダー平等に関して、成功していると言われるけれど、我々はまだまだ。男女比が50:50になっていません。日本とスウェーデン、社会の全員を社会に参加させる事が大事。出生率を上げることや移民を受け入れることよりもまず、女性に参加してもらうのがいいと思います。1歳になったら当然子供が保育園に通える権利があり、男性は育児休暇取得の権利を。雇用主は、若い世代を雇う際、どこかの時点で育児休暇を取ると認識したほうがいい。そしてこれらの権利は、市民が求めていかなければならない」と主張。

また大使は、日本について、「イノベーションの国。私がティーン頃、欲しいものは全て日本のものだった。気候変動のことなどもベストばかり求めず、2050年の目標に向けて1歩ずつ取り組めばいいのではないかと思う」と話しました。


アストリッド・リンドグレーンの実のひ孫にあたる、アストリッド・リンドグレーン株式会社著作権管理者のヨハン・パルムベリ氏はスウェーデンからリモートで登場。

男女平等問題は子供の権利にも影響する!
子供たちを守り、安全に住める社会へ。

アストリッド・リンドグレーン株式会社著作権管理者のヨハン・パルムベリ氏は、1978年にドイツの書籍協会から平和賞を与えられたアストリッドの「ネバー・バイオレンス」という子供の権利を、力強く擁護する有名なスピーチがきっかけとなり、スウェーデンが子供への体罰を禁ずる国になったストーリーを話してくれました。

「日本でも今年、体罰禁止が法律になったと聞き、自分も嬉しくなった」と話し、「強くあることは優しくあること。アストリッドの精神を受け継いでいきたい」と、『きょうのピッピ』というキャンペーンを実施。暴力の無い子供時代を送ってもらいたい、子供たちが安全に住めるようにと、世界中の小さな女の子たちを救う取り組みをしています。

イケア・ジャパン代表のフォン・ライス氏は、「スウェーデンでは子供たちも権利を知っている。声を上げることを。権利を知ることが重要」だと話し、堀江氏もまた、「多様性を受け入れる社会になるために、弱い立場の人々が声を上げられることが大事」だと訴えました。

最後にヘーグべリ大使は、「人権はあったらいいなではなく、原則。あらためて思ったのは、価値観、原則を当たり前だと思ってはいけない。人権、子供の権利、男性の権利も。男女平等は子供の権利に影響する。ロールモデルが重要だと思う」と主張。「今日の話が少しでもヒントになれば。とても有意義な時間だった」と、笑顔でパネルディスカッションを締めくくりました。

スウェーデンから見ると、日本では、政府に対して声を上げて強く立ち上がる国民はそれほどおらず、運動もあまり起こらない。非常に従順な国民だけれど、それは時に良くも悪くも作用すること。また、私達が持っている権利は、社会向けて声を上げることができるという意識が薄いという部分が指摘されました。

ヘーグべリ大使、イケア・ジャパン代表のフォン・ライス氏両氏は、目の前のことを変えようとするのは、非常に時間がかかるけれど、意識をし、声を上げて動かなければ進まないと話していました。

まずは、耳を傾け、対話をし、声に出すことが大切。毎日でなくても、世界人権デーといった日等をきっかけに、身近な家族や友達と話し合ってみる。筆者の家族にも、ちょっと話を振ってみたら、子供たちは知識もある程度持っている上に、どんどん意見が出来てきてびっくりします。ほんのちょっとしたことで、私達の国の未来の人たちの幸せに繋がるかもしれません。

※画像はIKEA Japan Human Rights Day 2020ライブ配信より

(2020年12月18日更新)
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