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【映画】ノルウェー・スウェーデン合作『願い』がグランプリ獲得!SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020


初のオンライン配信にて開催されたSKIPシティ国際Dシネマ映画祭が10月4日(日)に閉幕。北欧からは、スウェーデンのシニカルなコメディ『カムバック』、ノルウェー・スウェーデン合作ドラマ『願い』、デンマークの戦場カメラマンを追ったデンマーク・フィンランド合作のドキュメンタリー『戦場カメラマン ヤン・グラルップの記録』の3作品が上映され、ノルウェーのマリア・セーダル監督が自身の体験をもとに描いた『願い』がグランプリを獲得しました!

3作品、全て見ました!本日は、マリア・セーダル監督のインタビューを踏まえて『願い』を、パトリック・エークルンド監督のインタビューを踏まえて『カムバック』を、そして、『戦場カメラマン ヤン・グラルップの記録』に触れていきたいと思います。

今年上映された北欧3作品はいずれも、“いつもそばには家族がいる”というのが共通している点だと感じました。近くても、遠くても、ケンカしても。話を聞いてもらいたいし、聞きたい。気にしてほしいし、守りたい。ベッタベタの仲良しでなくても、それぞれがそれぞれの距離感で思い合っていることが、じんわりと染みてきます。


©Manuel Claro

命を失う危険はいつでも、誰にでもある。
心で、よりも、体でガツンと感じてほしい。

物語は、クリスマス前日に末期の脳腫瘍の診断を受けた主人公アンニャが手術を受けるまでの約10日間が舞台となっており、心に余裕はなく、邪心や計算もない、非常にリアルな様子が描写されています。ノルウェーで活躍するマリア・セーダル監督による9年ぶりの作品であり、復帰作でもある『願い』は、ただならぬ想いで臨んだようです。

オンライン配信されたインタビューで、監督はこの題材で撮ることを、「正直なところ避けていました」と、初めは乗り気ではなかったそうです。自分の経験を映画にすること、自分のことを扱うのに躊躇したとのこと。病気ものというジャンル映画に収まりたくなかったのだそう。

撮るのであれば、十分に客観視できて、しっかりと回復して元気でいないと作れないテーマ。普遍的なメッセージのあるものだという気持ちが芽生え、病の経験がない人も、見ている人がなんらかの関連付けが出来るもの、人間の状況を語るという意識で撮影したそうです。

自分がどんな感情で、どんな行動を伴ったのかということを伝え、命を無くす危険はいつでもあるということを見ている人に警告したかったのだと思うと製作を決めた当初を振り返っていました。「他の題材を撮るつもりだったのに、上手くいかなかったんです。この映画を作ってからでないと、次に進めなかった」と監督。セーダル監督でしか描けない作品であり、乗り越えるべきものだったようです。


©Manuel Claro

薬の副作用もあり、あからさまにイラつき、焦り、目の前に必死な状態にも関わらず、パートナーのトーマスに浮気をしたことがあるかなど、お互いに暴露話になったりと、今ここでそれ聞く?みたいなやり取りもあり、それがまた作品全体にリアリティをもたらしていました。

「心の内を共有するというよりも、体でガツンと感じる作品。見た人も、一緒に疲れてほしいんです」と監督。あなたの選択は?あなたの人生は?と問いかける映画。

夫トーマス役を演じたスウェーデン俳優のステラン・スカルスガルドは早い段階で決定していたのだそう。体で体現できる役者で、脚本を非常に気に入ってくれたとか。アメリカでの活動が多い中で、北欧では久しぶりとなる出演。長年の友人だったということもあったようです。

主人公のアンニャ役のアンドレア・ブライン・フーヴィグは、演劇、映画、TVをはじめ、歌手としても活躍する多才なノルウェー人女優。なんと彼女はコメディアンでもあるのだとか。間の取り方が良く、エネルギッシュ。デコボコカップルのコントラストも見どころです。

国際コンペティション審査委員長の澤田正道氏から「監督自身がこの主人公と寄り添って『生きる』ということを問いただしているように思える」と高く評価され、満場一致でのグランプリ受賞となりました。



【受賞コメント:マリア・セーダル監督】

ノルウェーの山小屋の自宅で目覚めると日本からEメールが届いていて、審査員の方々が私の作品をグランプリに選んでくださったことが書かれていました。今でも信じられない気持ちで、この素晴らしいニュースをたいへん光栄に思います。この受賞は私にとって特別なことです。なぜならこの物語は私のこれまでの作品の中でも最も自伝的なものだからです。私の個人的な体験を映画作品にするのは非常にチャレンジングなことでした。賞をいただけたのは、この物語が感情的にも文化的にも国境を越えられのだと思います。少なくともそう信じています。たいへん勇気づけられました。作品に関わったすべての者がこの受賞を誇りに感じると思います。

【審査委員長コメント:澤田正道氏(映画プロデューサー)】
最優秀作品賞には、審査員全員一致で本作を選びました。とにかく素晴らしくとても好きな作品です。ガンを告知された主人公は決して憐れみも受け入れず、時に観客にとっても目を背けたくなるような態度を見せながらも、死んでしまうことの恐怖と、残されていく子どもたちへの母親としての責任がひしひしと伝わってきます。まさにそこに生身の一人の女性、一人の母親を見ることができます。監督自身がこの主人公と寄り添って「生きる」ということを問いただしているように思えてきます。マリア・セーダル監督が次に何を撮るのかとても興味深いです。

コロナ禍において、どのくらい撮れるかは不明のようですが、マリア・セーダル監督によると、現在あたためているのがメキシコがロケ地のもの。『マン・ウォッチング(男性観察)』(仮)という、19歳の女性が学びのために留学するという設定の作品を手がけているそうです。

『願い』
2019年/ノルウェー、スウェーデン/125分/Hope
監督:マリア・セーダル


©Gustav Danielsson

いっしょに笑って、涙して、応援して!
負け犬中年女性の壮大なリベンジ計画。


スウーデン映画『カムバック』は、私はとても好きな作品でした。(北欧作品には珍しい?ちょっとお下品な笑いも多いですが)スウェーデンらしいブラックユーモア満載。かつて将来を嘱望されたバドミントン選手だった主人公の女性が、スウェーデン選手権決勝で審判の誤審で敗退してから人生が狂い始め、そのトラウマを克服すべく、35年後、再びラケットを握るというストーリー。

インタビューでパトリック・エークルンド監督は、「見ている人に笑って、涙して、応援してもらいたい」と手掛けた『カムバック』は、負け犬の中年女性が30年以上が過ぎてから壮大な復讐を計画する物語です。

バドミントンが題材になっているのも珍しく、なぜバドミントンというスポーツを取り上げたのかというと、監督自身も週2回、バドミントンをやっているそうで、ある日、楽しくエクササイズ的にバドミントンをやっていると思っていた高齢者同士が、シャトルがインかアウトかの勝ち負けで口論になっていたのだそう。このエピソードが、映画のヒントになったといいます。

かなり低予算で製作されたものだそうですが、登場人物が絞られていてわかりやすく、撮影や編集が凝っていて映像も楽しい。物語を進めて行ってくれるようなサウンドもポイントです。


©Gustav Danielsson

話題作『ミッドサマー』にも出演している主人公のアン=ブリット役のアンキ・ラーションは、「彼女の世代では素晴らしい女優の一人。演技の引き出しが多く、幅広い役ができる人。脚本が出来上がったときに、すぐにアンキさんに頼もうと決めていました」と監督。

また、良き友達でもあるという、オッレ・サッリについては、『サーミの血』や『ブリット=マリーの幸せなひとりだち』では堅めの役でしたが、今回はダメっぷりが目立つ、アン=ブリットの息子マティアス役。不器用ながらも、誰かが誰かを思い合う人たちが愛おしくなる作品です。

『カムバック』
2020年/スウェーデン/93分/The Comeback
監督:パトリック・エークルンド


©Good Company Pictures

戦場カメラマンと4人のシングル・ファーザーの2つの顔。
危険と隣り合わせの戦地で写真を撮り続ける理由とは。


3つ目の作品は、デンマーク・フィンランド合作の『戦場カメラマン ヤン・グラルップの記録』。こちらはドキュメンタリーで、世界を代表するデンマーク出身の戦場カメラマン、ヤン・グラルップの、戦場と家庭の両面の彼を追っています。

コペンハーゲンの自宅では4人の子育てに奮闘するシングル・ファーザー。戦場に行けば、イラクのモスルで「イスラム国」制圧を進めるイラク軍と行動を共にし、そこかしこで爆音や銃弾の音が聞こえ、危険と隣り合わせの状況で写真を撮り続けるという二重生活。

映像では、戦地でのヤンの様子を捉え、一緒に走り、密着。驚いたのは、ヤン・グラルップと一緒に戦地に赴いた撮影スタッフもいるということ。収められた映像は紛れもなく事実で、想像を超える惨状に言葉を失いました。


©Good Company Pictures

一方、コペンハーゲンの自宅では、思春期のティーンの子供たちの自然な会話にホッとします。ヤンは自分の仕事の話はせず、勉強や遊びなど、子供たちの望みをできるだけ叶えてあげようと行動し、子供たちもまた遠く戦地へ出かける父を静かに見送ります。言葉にはないけれど、いろんな感情が入り混じっていることがひしひしと伝わってきます。

戦争の恐ろしさをできるだけ多くの人に届けるために、子供たちを養うために。ヤンのメンタルは一体どうなっているのかと不思議に思うほど。戦地での異常な緊迫感。どうやってバランスを維持しているのかと。あっという間の78分。映像の中の戦地での現実は本当に見るのが辛くなりますが、同じ地球でこんなにも違う環境があるのかと、映像の力で教えられた気がしました。

『戦場カメラマン ヤン・グラルップの記録』
2019年/デンマーク、フィンランド/78分/Photographer of War
監督:ボリス・B・ベアトラム

3作品、どれも濃い、充実の内容!日本での劇場公開にも期待したいところです。
映画館で見る楽しみももちろんありますが、配信でもしっかりと楽しめました。初めて映画祭に参加した!という方もいらっしゃるのではないでしょうか?

その他の部門、作品の受賞については、公式HPまで。
来年はぜひ、監督たちが来日できるといいですね!



SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020(第17回)※終了しました
会期:2020年9月26日(土)~10月4日(日)
上映:オンライン配信(配信サイト:シネマディスカバリーズ)
部門:国際コンペティション、国内コンペティション(長編部門)、国内コンペティション(短編部門)
主催:埼玉県、川口市、SKIP シティ国際映画祭実行委員会、特定非営利活動法人さいたま映像ボランティアの会
公式サイト:http://www.skipcity-dcf.jp

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(2020年10月13日更新)
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