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【展覧会レポート】LGBTQの権利を訴えたフィンランドの作家、トム・オブ・フィンランドのアートの世界(10/5迄)




9月18日(金)より、渋谷パルコ地下1階のGALLERY X(ギャラリー エックス)にて、ゲイを描いたアートでLGBTQの権利を訴えたフィンランドの作家、Tom of Finland(トム・オブ・フィンランド/1920-1991)の日本初個展となる「Reality&Fantasy The World of Tom of Finland」が開催されています。

同展は、1946年から1989年の間に製作された30点の作品から構成され、Tom of Finlandのキャリア全体を網羅しながら、彼の多彩な才能に注目すると同時に、LGBTQの権利を世界中に推し進め、ゲイ・カルチャーの創成期を担ったLGBTQのレジェンドでもある彼の一面も紹介しています。

厳しい現実の中で、新しい表現を使って、
ゲイ男性に対する社会のイメージを変えた。


Tom of Finlandが担ったゲイカルチャー、自由な人間本来の自由に対しての役割にもフォーカス。現在では多様性、自由、寛容な社会の先進を行くフィンランドですが、かつてゲイであることは、犯罪や病気だとされた時代もありました。

トムはゲイの人々が変えようと戦っていた法律や社会の厳しい現実に直面しながらも、男性の身体を官能的でエロティックに描くことで社会の変容とゲイの人々の受容を促しました。性の解放とともにファンタジーの世界を追求しながら、トムはまったく新しい「ゲイの男らしさ」を描くことで、当時の社会がゲイ男性に押し付けていたイメージを払拭したのです。

グラファイトやグアッシュ、マーカー、ペン、インクなど、確かな技術を用い、様々な手法で制作された作品、特に、トムの名が一躍有名になるきっかけとなった『Physique Pictorial』誌の表紙を飾ったドローイング2点「無題」(AGM『Men of the Forests of Finland』より、1957年)、「無題」(AGM『Motorcycle Thief』シリーズより、1964年)など、誌面で掲載された貴重なドローイングも数多く披露され、見ごたえのある内容になっています。

同展は、フィンランドセンター、駐日フィンランド大使館、TOM OF FINLAND財団、The Container(サテライト展会場)、パルコの共同開催。展覧会のキュレーションは東京を拠点にキュレーターとして活動し、The Containerのディレクターでもある、シャイ・オハヨン氏が担当しました。


左から、シャイ・オハヨン氏(展覧会キュレーター)、アンナ=マリア・ウィルヤネン氏(フィンランドセンター所長)、マルクス・コッコ氏(駐日フィンランド大使館)、小林大介氏(株式会社パルコ)。


多くの苦難を乗り越え、2年かけて開催が実現。
日本でのLGBTQを考える良い機会になれば。


Tom of Finland生誕100周年にあたる2020年。同展のプレス内覧会で、株式会社パルコの小林大介氏は、「本来ならばトムの誕生日のある5月に開催されていたはずが秋になったが、日本では“芸術の秋”、“ゲイ術の秋”とも言える。渋谷パルコ1周年企画の展覧会に相応しい。盛り上げていきたい」と挨拶。

また、ペッカ・オルパナ駐日フィンランド大使の代理で、大使のメッセージを大使館のマルクス・コッコ氏が代読。「この展覧会は特に特別なもの。各国で開催されてきたが、日本では初。大使館がなぜここまでオープンに、このアーティストをサポートするのかというと、彼の作品には、平等・寛容・自由・忍耐など、フィンランド社会を象徴するものであるから」と話しました。

さらに、フィンランドセンター所長のアンナ=マリア・ウィルヤネン氏は、2年がかりでこの展覧会開催を実現した関係者、特にシャイさんに感謝の言葉を述べると、トムのすぐれた線画の技術、性的指向を謳歌する男たち、フィンランドを感じる風景や服装など、作品展の見どころをピックアップ。フィンランドセンターではオンラインプログラムも開催予定です。

サテライト展会場のThe Containerのディレクターであり、同展のキュレーターを務めたシャイ・オハヨン氏は、展覧会の概要や開催に至るまでの苦労を話してくれました。40年にわたり、トムが手掛けた作品を年代ごとに紹介。3500点以上もあるトムの作品から展覧会用に絞った30点は、許可されている作品からトム・オブ・フィンランド財団に200点をセレクトしてもらい、そこから最も重要で影響力のある作品をパルコの小林氏と選んだそうです。コントラストがはっきりしているLAでの後期の作品も披露されています。

また、トムが担った役割にも着目しており、「いまだ日本ではLGBTQに関してはひっそりと潜めるという風潮がある。触れない、蓋をしておきたいという文化。これまでも開催を何度か試みたが頓挫した。東京で行うのは本当に難しく、さまざまな施設で拒絶されてきた。“ゲイ過ぎる”というのが理由」と、展覧会開催にはかなりの苦難があった様子。

それでも、「日本はかなりスローペースだが、受け入れられ始めたと感じる。完全ではないけれど、少しずつ動きだした」と感じているようです。「日本でのLGBTQを考える良い機会になれば」とシャイさん。トムの作品を、性的アイデンティティ、男性の肉体美が描かれており、客観的に見てとても面白いと分析しています。


キュレーターを務めた日本在住11年のシャイ・オハヨン氏。


筆者がトム・オブ・フィンランドの作品を初めて見たのは、米カリフォルニア州バークレーだったと記憶しています。ただ、作品のインパクトはあっても、どんな人が描いたのかまではわかりませんでした。フィンランドでも多くの人がアメリカ人だと思っていたように、私もその一人でした。フィンランド人だと知った時は衝撃でした。日本初開催。トムが人生をかけて描き、訴えてきた作品がこうして日本で見られることが素晴らしい。トムの半生を描いた映画もおすすめです(記事最後に情報あり)!ぜひお見逃しなく!

「Reality & Fantasy  The World of Tom of Finland」は、渋谷パルコ地下1階GALLERY Xにて10月5日まで開催。11月には、心斎橋パルコでも開催される予定。

フィンランド美術史にも影響を与え、アート界でも高い評価を受けるトム・オブ・フィンランドの作品。バッジやクリアファイル、キーホルダーといった小物から、トートバッグやTシャツまで、豊富な展覧会グッズにも注目です。


内覧会ではトム・オブ・フィンランドのデザインのオーガニックウォッカのカクテルに遭遇(素敵なボトルですよね!)。クランベリーとウォッカのカクテルはさっぱりとした飲み心地でした。会期中、GALLERY Xの隣のバー「クアトロラボ」でTom of Finlandのオーガニック・ウォッカが飲めるそうです!


【Tom of Finland(トム・オブ・フィンランド:トウコ・ラークソネン)プロフィール】
フィンランドのアーティスト(1920年5月8日-1991年11月7日)。ゲイを描いた作品や、LGBTの人々の権利と彼らが社会から受容されることを目指した社会運動を推し進めたことで広く知られている。彼が生前に製作したドローイングは3500を数え、ニューヨーク近代美術館(MoMA)、アート・インスティテュート・シカゴ、ロサンゼルス・カウンティ美術館、ヘルシンキ現代美術館などに収蔵されている。



Reality & Fantasy  The World of Tom of Finland

会期:2020年9月18日(金)~10月5日(月)
会場:GALLERY X(渋谷PARCO B1F 東京都渋谷区宇田川町15-1-B1F)
https://art.parco.jp/
営業時間:11:00~21:00
※最終入場は営業終了時間の30分前
※10月5日(月)は18:00まで
入場料:500円(未就学児入場不可)

<フォトギャラリー>







こちらは大人の皆様限定。18禁ゾーン。

<展覧会限定グッズ>








<関連プログラム>
■フィンランドセンター所長アンナ=マリア・ウィルヤネンによるキュレーション
2020年9月18日(金)~10月5日(月) ※プログラムは変更になる場合あり
Tom of FinlandとLGBTQの権利にまつわるトーク、レクチャー、ワークショップを予定。
http://www.finstitute.jp/ja/


渋谷パルコ8階にある映画館WHITE CINE QUINTO

■映画『Tom of Finland』(2017年、ドメ・カルコスキ監督)上映会
2020年9月19日(金)~24日(木)
会場:WHITE CINE QUINTO(渋谷 PARCO 8F)
https://www.cinequinto.com/white/
※R18+のみ上映

2020年9月25日(金)~10月8日(木)
会場:SHIBUYA UPLINK
https://shibuya.uplink.co.jp/
※高校生にも鑑賞してもらえるようR15+バージョンが特別に上映されます。
東京ではUPLINK渋谷で9/27(日)と10/4(日)の日曜限定2回上映。他劇場でも順次上映を検討中。


▼映画『トム・オブ・フィンランド』公式サイト
http://www.magichour.co.jp/tomoffinland/

■サテライト展「An ode to Tom of Finland(Tomへの頌歌)」
2020年9月21日(月)~11月30日(月)
会場:The Container(東京都目黒区上目黒1-8-30)
http://the-container.com
Tom of Finlandの作品から影響を受けた日本人アーティストの展示。
参加アーティスト:田亀源五郎、三島剛、Jiraiya

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(2020年09月27日更新)
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