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【映画】おとぎ話の香り漂う話題の北欧ミステリー『ボーダー 二つの世界』(10/11公開)



昨年のカンヌ映画祭の「ある視点部門」でグランプリを受賞、イラン系デンマーク人の新鋭アリ・アッバシ監督と、『ぼくのエリ 200歳の少女』(08年公開/10年日本公開)の原作者としても知られるヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストが共同で脚本を手がけ、さらには、本年度アカデミー賞®メイクアップ&ヘアスタイリング賞でノミネートを果たした話題作です。

怒りや羞恥といった人の感情を嗅ぎ分けることができるという、特殊能力を持った税関職員を務めるティーナ。その容姿のために、幼い頃から孤独と疎外を強いられている彼女は、ある男との出会いにより、人生に関わる大きな出来事に巻き込まれていきます。

子供をめぐる社会問題、ロマンス、ミステリー、サスペンス、ファンタジー……。多くの内容が詰め込まれているにも関わらず、どこか常にオーガナイズされているため、見ている側は混乱することなく、物語の中のドキドキ感を持たされたまま展開されていくストーリーにくぎ付け。想像をはるかに超えてくる衝撃作。面白かったです。



数多くのテーマが掲げられているため、人によって、その時の感度によって、印象に残る部分、問いかけられている部分が異なってくるのではないかと。また、誰が、彼らが、ではなく、自分はどうしたいのか、どうありたいか。自分の居場所は自分で作るもの。ティーナが直面するさまざまな“ボーダー”に、見ている側も考えさせられます。

本作は、とても詩的で、映像化するにはとても難しいシーンがあったと推測しますが、(ビジュアル的に衝撃シーンはありました)、物語の中にちょこちょことヒントを与えてくれますし、テンポよくストーリー展開されていて、まさか……そうくるか!?と、唸らされます(笑)スウェーデン映画に香るファンタジーを駆使しつつ、リアリティを打ち出したりと、品よくバランスよく、サスペンスに組み込んでいるところがスウェーデンの作品らしいなと感じます。

アリ・アッバシ監督はヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストの才能について、「常に最も難しい部分である、現実と幻想の間の架け橋を構築する」ところだと言い、彼の文章をもっと深く掘り下げた結果、この作品に辿り着いたのだそう。ただ同時に、この物語をスクリーンで表現することの難しさも感じていました。それでも、登場人物や複雑で異世界的なものに魅力を感じ、もっとストーリーが面白くなる要素があると加筆修正しつつ、脚本を完成させていったようです。本質的には、映画はオリジナルストーリーに近いものに仕上がっているのだそう。



主人公のティーナ役はスウェーデン人女優(エヴァ・メランデル)ですが、ティーナの前に現れる謎の男、ヴォーレ役のエーロ・ミロノフは、フィンランド生まれの俳優。似たようで異なる歴史を持つフィンランドとスウェーデンという関係性、絶妙な距離感が、自然な形でこの映画に良いムードをもたらしています。このあたりも映画館でぜひ感じてみてください。

ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストの短篇集「ボーダー 二つの世界」の邦訳版が、9月19日(予定)に早川書房より刊行されるそうなので、原作も読んでみたいという方はチェックしてみてはいかがでしょう。

映画『ボーダー 二つの世界』は、10月11日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開予定。



【ストーリー】
税関職員のティーナは、違法な物を持ち込む人間を嗅ぎ分ける特殊能力を持っていた。ある日、彼女は勤務中に奇妙な旅行者ヴォーレと出会う。ヴォーレを見て本能的に何かを感じたティーナは、後日、彼を自宅に招き、離れを宿泊先として提供する。次第にヴォーレに惹かれていくティーナ。しかし、彼にはティーナの出生にも関わる大きな秘密があった―。



ボーダー 二つの世界
監督・脚本:アリ・アッバシ
原作・脚本:ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト『ぼくのエリ 200歳の少女』
2018年/スウェーデン・デンマーク/スウェーデン語/110分/原題:Gräns/英題:Border
配給:キノフィルムズ R18+
http://border-movie.jp
予告編:https://youtu.be/hCf6pRo97E0
© Meta_Spark&Kärnfilm_AB_2018

10月11日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開



(2019年08月26日更新)
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