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【映画】72分におよぶ悪夢の銃乱射をワンカット撮影で描いた衝撃作『ウトヤ島、7月22日』(3/8公開)



3月8日に、ノルウェー映画『ウトヤ島、7月22日』が公開されます。本作を手がけたのは、『ヒトラーに屈しなかった国王』のエリック・ポッペ監督。一緒に登壇し、自身もワンカット撮影に臨んだことのある松江哲明監督との来日トークイベントの模様を踏まえながらご紹介します。

2011年3月、東日本大震災に見舞われたあの日から約4カ月後、治安の良い北欧の福祉国家として知られるノルウェーで悪夢のような連続テロ事件が発生。15時頃、首都オスロで爆発があり8名が死亡。さらに17時過ぎ、オスロから40キロ離れたウトヤ島で銃乱射事件が発生。ノルウェー労働党青年部のサマーキャンプに参加していた10代の若者たち69名が無差別に殺害されました。

混乱に陥ったのはノルウェーの人々だけでなく、世界中の人々の心にも深く刻まれた非常にショッキングな出来事。ウトヤ島で亡くなった人の中にはノルウェー王太子妃の義兄Trond Berntsen氏の名前もありました。

犯人は当時32歳のノルウェー人、アンネシュ・ベーリング・ブレイビク。排他的な極右思想の持ち主だったブレイビクは、積極的に移民を受け入れていた政府の方針に強い反感を抱き、連続テロ計画を実行。77名の命を奪ったこの事件は、単独犯としては史上最多。ノルウェーにとって戦後最悪の惨劇となってしまいました。

いまだ記憶に新しいこの事件から7年。偶然にも2018年にこの連続テロ事件が題材となった映画が2本製作され、世界の注目を浴びています。1つは、ポール・グリーングラス監督が手がけたNetflixオリジナル配信映画『7月22日』。もう1つが、本作。アカデミー賞®外国語映画賞ノルウェー代表作品にも選出されたエリック・ポッペ監督の『ウトヤ島、7月22日』です。




■「この作品を見て悲しくなければ、遅すぎる」

ベルリン国際映画祭の取材で、なんと1600人もの記者を迎えたというポッペ監督。7年しか経っていないこの題材を映画で上映するのは「時期尚早ではないか?」という質問があがったそうです。

「ぜひ協力したい」と、最初からずっと製作に携わってくれた生存者たちもまたベルリン国際映画祭の会場に来ており、そこで訴えたのは、「この作品を見て悲しくなければ、遅すぎる」でした。

本作は、前作の(非常に時間をかけて撮った)『ヒトラーに屈しなかった国王』と並行して撮影を進めていた監督。ノルウェー国営放送NRKでもたくさんの著名人が議論を展開し、対談を行っていたといいます。しかし、「人々はあの事件を本当には理解していないのではないか?」と疑問に思ったとか。

また監督は、「世の中はヘイトスピーチを見過ごしてきた。ネット界のみならず、政界でも憎悪に満ちた言葉が発せられている。その結果、一人の男があのような事件を起こした。過激な思想への警鐘を鳴らすために、この映画を作ったんだ」と、静かに力強く語ってくれました。




■ウトヤ島での無差別銃乱射事件を72分間ワンカットで映像化

本作でポッペ監督はウトヤ島での無差別乱射事件に焦点を絞り、72分間続いたという銃乱射の模様を、ワンカットで映像化しました。生存者が共通して口を揃えていたのが、「あの72分間は永遠に続くのかと思った」ということ。それを意識して、72分間をワンカットで撮影することに。

松江哲明監督が本作を初めて見たとき、ポッペ監督がこの映画を作ったことに「勇気を感じた」と言うと、「勇気を持っていただいたのは生存者の方々」だとポッペ監督。「2年間ずっと一緒に作ってくれた彼らこそが勇気のある人たちです。こういった人たちが放置されることが最も怖いこと」と、覚悟を持って協力し、製作に臨んでくれた生存者の方々に感謝の意を述べました。

また、本作を「ただ疑似体験するだけでなく、映画的な詩的な部分もあり、一人ひとりの人生を感じるようでした」と感想を語った松江監督。どんなことに気をつけて製作したのかをポッペ監督に問うと、最も意識したのは、「大多数の声や体験談」と回答。この映画では、ドラマチックやセンセーショナルな体験ではなく、大多数の人が体験したことを忠実に描きたかったとのこと。




松江監督からキャスティングについての質問も。ポスタービジュアルにもなっている主人公的な少女をはじめ、どのようにキャスティングしたのかというと、1年かけてノルウェー全国を探し回ったそう。なんと、「この映画が成立する。この企画がワンカットでいける」と思ったのは、あのポスタービジュアルの彼女のビデオを見たとき。そのくらいメインの彼女は、本作をリードするうえで重要な役割を担っています。必見です。

最後に、「(会場に向かって)皆さん、ありがとうございます。私は、日本の文化や映画に影響を受けてきました。黒澤監督、現代では是枝監督など、本当にリスペクトしています」と、深々と日本映画への尊敬の意を述べてくれたポッペ監督の言葉にじんわりと胸が熱くなりました。前作の『ヒトラーに屈しなかった国王』のPRの際にインタビューさせていただいた時に感じたように、映画を通じて本当にまっすぐ、伝えたいことを伝えるために真摯に向き合っている熱い監督です。



あのような事件の再発を未然に防ぎ、再発を防止するためにはどうしたらよいのか。『ウトヤ島、7月22日』は、静かに、我々に問いかけてくる映画です。

日本でのあの事件の報道は限定的で、事件の全容はあまり知られていません。この映画は、フィクションですが、音楽もなく、かなり生々しい。怖さももちろんあります。でも、オカルトでもホラーでもありません。目を背けず、直視することで見えてくる何かがある。真摯に製作に携わった生存者の願いや監督の想いをぜひこの機会に!

『ウトヤ島、7月22日』は、3月8日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー!

▼前作『ヒトラーに屈しなかった国王』の際に来日したときのポッペ監督インタビュー
【特集】大きな挑戦だったのは「正しく撮る」ということ――映画『ヒトラーに屈しなかった国王』エリック・ポッペ監督インタビュー 

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【ストーリー】
2011年7月22日、午後5時過ぎのウトヤ島。若者たちは、ノルウェー労働党青年部主催のサマーキャンプを心から楽しんでいた。オスロの政府庁舎で爆破事件が発生したとの知らせが届き、かすかな動揺が広がる。突如遠くから銃声が聞こえ、訳がわからないまま、カヤ(アンドレア・バーンツェン)は仲間たちと森の中に身を隠す。銃声は止むことなく若者たちは島中を逃げ回る。恐怖に怯えながらも、離ればなれになった妹エミリアを捜すカヤ。銃声と悲鳴が飛び交う悪夢のような極限状況のもと、あちこち駆けずり回るカヤの行く手には想像を絶する光景が広がっていた……。



ウトヤ島、7月22日
監督:エリック・ポッペ
出演:アンドレア・バーンツェン、エリ・リアノン・ミュラー・オズボーン
2018年/ノルウェー/ノルウェー語・英語/97分/原題:Utoya 22.juli
配給:東京テアトル
http://utoya-0722.com/
Copyright (c) 2018 Paradox

3月8日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー



(2019年02月20日更新)
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